カレーライスと日本人

5章

レシピがオリジナルと全く違う発展を遂げたという意味で、カレーは寿司や天ぷらと同じ日本料理である。カレーの特殊性は、それが仏教からの解放、肉食解禁と同時に起こった点だ。まず牛鍋食わねば開化不進奴と言われたように、外食レベルでは肉食は広まった。そして家庭料理として牛や鶏のカレーが肉食を推進した。ステーキに比べ見た目の抵抗感が少ないことが普及に貢献した。その後、養豚が始まった。これは、実際に大正時代に生きた人々からのインタビューによる情報だ。(執筆当時1989年)こうしてカレーはイギリス料理だったからこそ、文明開化の一環として普及したのだった。また、伝統的な日本料理に比べ作るのが楽なことが、軍隊や繁忙期の農村でカレーが普及した理由だ。

カレーが家庭料理化を後押ししたのはカレー粉の国産化だ。S&B食品の創立者山崎により、C&Bのカレー粉を水増しするという不純な動機で、日本初のカレー粉研究は開始された。その後昭和38年バーモントカレーが発売し、りんごと蜂蜜を象徴として、子供の食べ物として広まっていく。子供ちやほや時代がカレーの普及を後押ししたのだ。

インドカレーが日本に到来した。中村屋の創業者相馬はひょんなことからインドからの亡命者を助け、娘と結婚させたのだ。

その後、一人暮らしと冷凍食品の時代が来ても、レトルトカレーとしてカレーは拡大し続けた。

イギリスでは逆にカレーは衰退した。カレーはローストビーフ文化の残り肉処理係に過ぎず、毎週ローストビーフを作るということはイギリスの没落とともに不可能になった。

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d.b